感染症がなぜ、いまになって急激に増加しているのだろうか。これには、大きく2つの原因があると考えられる。細菌そのものの変化とわれわれ人間の変化。
人類は、長い間感染症に悩まされてきた。結核をはじめとして、ペスト、コレラなどが死亡原因の主であった時代は長かった。近年、抗生物質の発見によりこれらの感染症は大部分が克服された。
しかし、この抗生物質こそが細菌を変化させ、現在の感染症の原因となってしまったのである。抗生物質はたしかに細菌の発育や繁殖を抑制し、人類を感染症から守ってきた。しかし、細菌は突然変異により、抗生物質に耐性をもった新型の種類をつくり出す能力を多分に備えている。
人間などでは、突然変異種が生まれる可能性は低い。また人間が、次世代の人間を生み出すのにも20~30年ほどかかる。しかし、細菌は条件さえ整っていれば30~40分程度で2倍に増え、突然変異を起こす確率もかなり高い。
つまり、細菌はかなりの短時間で、抗生物質にも耐えうる新しい型をつくり出すことができるのだ。抗生物質に耐性を持つ菌があらわれたのは当然のことといえる。すると人類は、耐性菌にも効く抗生物質をつくりだし、再び耐性をもつ菌があらわれて...というように、人間と細菌のいたちごっこが続いている。
人類もかなり頑張ってはいるが、時間的にも数的にも細菌が有利で、将来的に細菌側の全面勝訴となる可能性は否定できない。ちなみに、抗生物質の耐性菌が次々とあらわれ、手術後感染症が続発するために、耐性ができた抗生物質を整理する監視制度もできているくらいだ。
次に、人間側の原因について考える。1996年のO-157中毒の発生例から。同じ給食を食べながら発症した子供と何ともなかった子供がいる。全員が発症したわけではない。もちろん、その時の体調や食べた量などもあるからいちがいにいえないが、子供たちの間に病気に対する免疫力、抵抗力の差があったことは否めない。
また、O-157が発生した国は、アメリカ、オーストラリア、日本である。いずれも先進国であり、衛生環境はともに良いはずである。しかし、この衛生環境が良くなったことが逆に人間の免疫力を弱め、感染症にかかりやすくしているとの考え方もできる。
このほかに、大気汚染、日々のストレス、食品添加物等、その因果関係は明らかにされていないが、先進国での多発を考えると、これらが人間の免疫力を何らかの形で低下させている可能性はある。
また、現在の日本では異常なほど清潔志向が高まっている。清潔であるのは良いことであるが、いささか潔癖という感もある。街には抗菌グッズがあふれ、抗菌まな板や歯ブラシならともかく、ボールペンやマイクなど、たいして必要のないものにまで、抗菌のものがある。
消毒薬を多用して細菌の存在自体をなくしてしまおうとすることも問題だ。細菌を全くなくしてしまおうとするのは無理なことだし、われわれの体内や自然界において細菌が役に立っていることを思えば間違いだ。
どんなに清潔を心掛けていても、細菌は日常的に存在している。細菌に対して過剰な反応ばかりしていると、自分自身の細菌にたいする抵抗力が落ちてしまい、かえって感染症を発症してしまう可能性がある。細菌に対してまったく無頓着なのもいけないが、あまり神経質にならずに自らの抵抗力、免疫力を高めることを考えることも大切。
日頃から自分の免疫力で病気や症状を軽減する生活習慣も必要。自分の免疫力で治すなどを読むと薬に頼り切っている現代人の生活習慣を見直さなければ...と思う。
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