土壌に多く含まれるセレン( セレニウム) は、グルタチオンペルオキシダーゼ(過酸化酵素)の生成に不可欠で、ほとんどすべての細胞に含まれている主要な抗酸化剤です。
米国国立がん研究所の後援で行われた研究により、セレン・サプリメントががんの危険性を激減させるのではないかと考えられています。この研究では、皮膚がんにかかったことのある1312人に、毎日200 mgのセレン、もしくは偽薬を与え、8年間観察しました。この研究の本来の目的は、セレンが皮膚がんの再発を防ぐことを確認することでした。
当初は、皮膚がんの予防効果が見られず、研究者はがっかりしましたが、驚いたことに肺がんや前立腺がん、結腸がんなどの、ほかのがんのリスクが激減したのです。
事実、セレンを摂取していたグループは、偽薬グループと比べてがん死亡率が半分以下でした(偽薬グループのがん死亡件数が57件だったのに対し、セレングループは29件でした)。
ただし、セレンはがんを予防するものの、ひとたびがんが体内に発生すると、その進行をくいとめることはできないと考えられています。
セレンが、がんやほかの病気の危険性を減少させることが確認されたのは、今回がはじめてではありません。がんや心臓病、ほかの重い病気にかかっている人は、セレンやグルタチオンの値が通常より低く、逆にセレン値の高い人は、がんや脳卒中になる危険の低いことがすでにわかっています。アメリカ南西部は全国でも脳卒中患者数がもっとも多く、「脳卒中地帯」として知られていますが、土壌中のセレンの割合がもっとも低いという事実があるのです。ガーリックやタマネギ、ブロッコリー、小麦ふすま、赤ブドウなどはセレンを非常に多く含んでいますが、アメリカ人は食物からセレンを十分に摂取できていません。土壌中のセレンの割合は土地ごとに異なりますが、この差がその土地で収穫される食物に影響を与えるのです。しかも、セレンを豊富に含む食物であっても、現代の栽培法では、せっかくの貴重なミネラルを破壊してしまっています。
たとえば、小麦を精製する過程で大量のセレンが奪われ、非常にもったいないことをしているのです。アメリカ人男性の前立腺がんによる死亡率は、日本人男性の5倍ですが、これはアジアでの食生活で摂取されるセレンが、アメリカの標準的な食生活で摂取される量の4倍であることが原因かもしれません。
もちろん、アジアでは大豆など、前立腺がんのリスクを減らすほかの食物も食べられていますが、セレンもその要因だと考えられます。血中のセレン値を上げるのは、むずかしくありません。セレンを多く摂れば摂るほど、血中値は上がります。セレンを多く含む食品に加え、セレン・サプリメントを摂れば、生命保険に加入したようなものです。
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