今の糖尿病治療では大きな問題
現在、日本で行われている2型糖尿病の治療は、第1に低カロリー・低脂肪の糖尿病食による食事療法、第2に運動療法、第3に薬物療法、この3三本柱が主流となっています。
みなさんの中にも、カロリー計算を念入りに行って低カロリー・低脂肪の糖尿病食を毎日辛抱強く続け、1日1万歩を毎日熱心に歩き、血糖降下薬やインスリン注射のお世話になつている人が多いと思います。
しかし、こうした懸命の努力のかいなく血糖コントロールが難しくなり、糖尿病が悪化してやっかいな合併症を招いてしまう人が多いのも否定できません。
糖尿病の実態調査でも、薬物療法を行っている人のうち血糖コントロールがうまくできている人の割合は、30.6% にしかすぎないと報告されています。薬を用いていながら、七割近くの患者さんは血糖コントロールがうまくいかないのです。
これはどういうことでしょうか。医師や栄養士の指導を守らない患者さんがいけないのでしょうか?それは違います。その答えは、今の糖尿病治療における血糖コントロールのあり方そのものに、大きな盲点があるためだと確信しています。
具体的にいえば、今の糖尿病治療では、食事による血糖値の上昇を防ぐことよりも、上昇した血糖値をいかに下げるかということばかりに重点が置かれているからです。
血糖値は下げるのではなく上げないことが治療になる
一般的な糖尿病の方の1日の血糖値の推移を表すグラフをつくると一目瞭然です。血糖値は1日3度の食事のたびに上昇し、血糖の消費を促すインスリンの働きで数時間後にもとに戻るというパターンをくり返します。
通常、血糖値が200ミリを超えると即座に血管の内壁が傷つき、この状態がくり返されるうちに血管が著しく障害されて、さまざまな合併症を招くことになります。そのため、今の糖尿病治療では、食後血糖値を180ミリ未満に抑えるのを目標に、治療指針が立てられます。具体的には、糖尿病食や運動療法の指導とともに、上昇した血糖値を主に薬で下げようとします。
しかし、ちょっと考えてもみてください。食後にいったん上昇した血糖値をわざわざ薬で下げようとするよりも、最初から血糖値を上昇させないようにすることができれば、そのほうがいいに決まっています。食後高血糖のリスクが抑えられて、薬の使用も最小限ですむからです。
ほかの病気もでも同様ですが、糖尿病でも薬の使用は最小限にとどめるほうが体への負担は少なくてすみます。糖尿病治療でよく用いられる血糖降下薬は血糖値を一時的に下げる効果は確かに大きいのですが、疲弊したすい臓にムチ打つことでインスリンの分泌を無理やり促そうとする薬でもあります。そのため、長く常用していると、すい臓の負担がさらに増し、やがてインスリンの分泌が停止して、血糖コントロールができなくなる恐れが多分にあるのです。
血糖コントロールを困難にする食事の糖質
では、現実的に食事による血糖値の上昇を防ぐことなど、本当に可能なのでしょうか?実は毎日の食事を少し工夫すれば、比較的簡単にできます。三大栄養素のうち血糖値を上昇させるのは「糖質」だけなので、食事でとる糖質の量を最小限に減らせばいいのです。
ところが、今の糖尿病の治療ガイドラインでは、カロリーと脂肪の制限ばかりに目が向けられていて、肝心の糖質の摂取を制限する指導はほとんど行われていません。むしろ、食事全体の5~6割を糖質が占める低カロリー・低脂肪の糖尿病食が盛んに推奨されています。
これでは、1日3度の食事のたびに血糖値が急上昇し、食後高血糖を頻繁に起こしてしまうのも無理はありません。多くの人が糖尿病の悪化や合併症の発生を防げないのは、ここに要因があつたのです。
毎日の食事で糖質をたくさんとり食後高血糖をくり返し、そのたびにすい臓を酷使礼牝疲弊させる→インスリンの分泌が滞って血糖コントロールがうまくいかなくなると、今度は血糖降下薬を使わざるを得ず、さらにすい臓を酷使して疲弊させる→それでも毎日の食事で糖質をたくさんとりつづけるので食後高血糖が頻発する→ この悪循環が糖尿病の治療を難しくしていたのです。
では、どうすればいいのでしょうか?多くの糖尿病の方が陥っている悪循環を断ち切れば、血糖コントロールが容易になり、糖尿病の悪化が抑えられ、合併症の発生を防ぐことにつながるのです。そして、そのカギを担うのが、糖質の摂取を制限する「糖質制限食」なのです。
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