腸内細菌の好物を食べていると、幸せの感度があがる
最近、私は、腸内細菌の悪化がうつ病や不安神経症を促している可能性を示唆する研究結果を発表しました。
腸の健康と脳の健康は連動していることがわかったのです。今、日本では30~50代の働きざかりの人のうつ病がとても多くなっています。また、うつ病とまではいかなくても、日常的にうつ気分や不安、イライラなどの症状を強く感じている人も多いと思います。こうした病気や症状は、腸内細菌を元気にすることで改善できるはずです。
人が幸せを感じるとき、脳内ではドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が分泌されています。セロトニンは歓喜や快楽を伝える物質で、ドーパミンは気持ちを奮い立てやる気を起こす物質です。これらの幸せ物質が不足すると、うつ病や気分の不安定化が起こりやすくなります。とくにうつ病との関係が深いとされるのが、セロトニンです。
ですから、うつ病になると、薬によってセロトニンの量を増やして脳内の活動を促し、また、セロトニンやドーパミンを増やすための栄養指導が行われます。セロトニンやドーパミンはタンパク質の分解成分である必須アミノ酸を原料に、腸内でビタミン類の力を借りて合成されます。肉や魚、卵、大豆、乳製品などに多く含まれる必須アミノ酸は、人間が体内で合成できないため重視して摂取しなくてはならないもので、とくにうつ病の人は「卵、魚、乳製品を食べてください」と指導されることになります。
しかし、私に言わせれば、こうした治療の前にやることがあります。腸内細菌を元気づけることです。なぜなら、タンパク質から必須アミノ酸を合成するにも、必須アミノ酸からセロトニンやドーパミンを合成するにも、ビタミンC やB2、葉酸、ナイアシンといったビタミン類が必要だからです。人間はビタミンを体内で合成することができず、腸内細菌が合成してくれます。そのため、腸内細菌がバランス良く、数もたくさん存在しないと、セロトニンもドーパミンも十分に分泌できないのです。
東北大学の研究によると、腸内細菌によるビタミンB群の合成力は、腸内細菌の餌となる食物繊維を腸内に摂り入れることで、大幅に増強されました。さまざまな健康法では「ビタミンをよく摂りましょう」と言われますが、ビタミン類を含む食べものをいくら摂っても、腸内細菌に元気がなければ意味がありません。
食品に含まれるビタミン類はただちに人間の栄養素になるわけではなく、いったん腸に届いて、腸内細菌に合成してもらわなければ体は活用できないのです。
では、腸内細菌の働きを活性化し、数を増やすためにはどうすればよいのでしょうか。やってはいけないのは、「好きなものばかり食べること」です。うつ病になったり、イライラや不安が強くなったりすると、好きなものばかり食べて、脳を満足させようとします。ストレスに侵されると、脳は甘いものや炭水化物を多く含むものなど自分の大好物を要求するようになります。
そして糖が入ってくると満足して「快」の感覚を放ち、脳はいっときストレスを忘れます。ストレスを受けると食に走りやすいのは、脱が起こさせる一種の逃避行動なのです。
しかし、それを続けてしまうと、腸が困ります。食べものが次から次に入ってきて働き続けなければならないのに、腸が大事に育てている腸内細菌の餌が満足に入ってこないからです。野菜や海藻、果物などの腸内細菌の大好物を含む植物性食品を食べないと腸内細菌を増やすことができず、腸内バランスが崩れていきます。
腸内細菌の量は、便を見ればわかります。私たちの便は、その約半分が死んだ腸内細菌と生きた腸内細菌で、大きくてほど良い硬さのある便がスボンと出てくれば、腸の中で立派な腸内フローラが築かれている証です。反対に、貧弱な便は、腸内細菌の畳も減り、腸内フローラの質も悪いことを物語っています。うつ病の人の便は、ほとんどが後者です。脳を喜ばせるものばかりを食べていると、腸内細菌が育たないからです。好きなもの中心の偏った食事をしている人は、うつ病になりやすく、イライラや不安なども強くなりやすいとも言い換えられます。反対に、腸内細菌の喜ぶものを1 日3回食べていれば、うつ病になりにくく、またイライラや不安等の症状も消えていくのです。
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