「オウム病」と聞いてドキッとした人もいるかもしれません。これは病気です。これはオウム病クラミジアという微生物から感染しておこる肺炎で、ペットから移る病気ですが、19 世紀末にはじめて発見されたとき、たまたまその感染源がオウムからだったということからこの名がつきました。
オウム病
オウム病 は、オウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci)を吸入し、感染後約1~2週間の潜伏期間を経て突然の発熱(38℃以上)、咳(通常乾性)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などの症状が出現する疾患である。 肝脾腫や比較的徐脈(高熱のわりに脈拍が遅い)が認められることもあります。
だからといってオウムだけが感染源なのではなく、カナリヤ編や文鳥など、また、鳥に限らず犬、猫、牛などの哺乳動物も感染します。
ペットの糞や尿などから吸入感染するのですが、このところの ペットブームで人間への感染が問題にされ始めたのです。やっかいなのが、人間がこれに感染した場合に誤診を招きやすいことです。
というのも、初期症状は軽くせき込む、微熱が続くといった程度で風邪の症状とまちがえられやすいからです。しかし、症状が悪化すると肺炎や髄膜炎を起こし、発熱や嘔吐、下痢などを伴い死亡するというケースも報告されているほどです。
もし、「風邪かな〜」と思ったとき、飼っている小鳥も元気がなかったら「、飼い主と一心同体か」などとのんきに感心する前にちょっと疑ってみたほうがいいでしょう。
あくまでも素人判断は避けて、早めに病院に行きましょう。その際、お医者さんに小鳥を飼っていることを告げ、血清検査(血液を放置した時にできる、薄黄色の透明な液を血清という。ここに含まれた免疫抗体を調べる検査のこと) をしてもらうことです。
ちなみに、オウム病は人から人へは感染しません。しかし、ペットをかわいがるのもほどほどに。口移しにエサをやるなどは慎んだほうがよさそうです。
臨床症状
オウム病の病型には、インフルエンザ様の症状を呈する異型肺炎、あるいは肺臓炎の型と、肺炎症状が顕著 ではない敗血症様症状を呈する型とがある。高熱で突然発症する例が多く、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などがみられる。比較的徐脈、肝障害を示すこと が多い。呼吸器症状としては、乾性あるいは湿性咳嗽がみられ、血痰、チアノーゼを認める重症例もある。病態は上気道炎や気管支炎程度の軽症例から肺炎まで 様々であるが、特に初期治療が不適切でARDS や重症肺炎に至った場合、さらに髄膜炎、多臓器障害、ショック症状を呈し致死的な経過をとることもある。
胸部理学所見は病変の程度により様々であり、胸部X 線所見もマイコプラズマ肺炎に類似し、オウム病に特有な所見はないとされる。検査所見では白血球数は正常で、CRP や赤沈は亢進する。中等度の肝機能異常をきたすことが多い。
病原診断
オウム病の診断には、とくにトリとの接触歴についての問診が重要である。飼育鳥が死んでいる場合は特に疑いが濃い。飼っていなくても、ペットショップに立ち寄ったり、公園でハトと接触した、などの接触歴がある場合が多い。
病原診断には、患者の気道や病鳥からのC. psittaci 検出、あるいは血清特異抗体の測定が行なわれる。患者咽頭材料やトリからは分離、PCR で検出可能であるが、分離は細胞培養を必要とすることや、実験室内感染の恐れがあるため、特定の施設でのみ行われる。
臨床の現場では血清診断が主体となる。従来オウム病の血清診断に用いられてきた補体結合反応(オウム病CF)は、主に属特異抗体を測定するものであり、 他のクラミジア種の感染でも陽性となるため、可能な限り種の特定ができるmicro‐IF 法などを用いるべきである。原則として、ペア血清で4 倍以上の上昇を認めた場合に確定診断とする。
治療・予防
血清診断の結果は通常治療開始時には出ていないので、明らかにトリとの接触歴がある場合は、オウム病による肺炎を第一に考えて直ちに治療を開始する。ク ラミジアに対しては、細胞壁合成阻害剤であるペニシリン系薬やセフェム系薬などのβ‐ ラクタム薬は無効である。また、アミノ配糖体も効果はない。オウム病に対してはテトラサイクリン系薬が第一選択薬である。マクロライド系、ニューキノロン 系薬がこれに次ぐ。
中等症以上での処方例
ミノサイクリン(100mg)1 日2回 点滴静注
入院治療を行う。投与期間は10〜14 日であるが、軽快後は内服に切り替えも可能。
軽症での処方例 下記のいずれかを用いる。
1 )ミノサイクリン(100mg )2錠 分2朝夕
2 )クラリスロマイシン(200mg )2錠 分2朝夕
幼小児や妊婦では、テトラサイクリン系薬の歯牙や骨への沈着を考慮して、エリスロマイシンの点滴静注やニューマクロライド薬の内服などを行う。
投与期間については、一般的な市中感染の細菌性肺炎では7〜10日程度のことが多いが、クラミジアに対しては除菌を考慮し、約2週間と長めの投与がよ い。全身状態の改善が良好であれば、経口剤に切り換えてもよい。胸部X 線像や赤沈の改善が完全でなくても、他の所見が明らかに改善していれば、特に元気な若い人の場合などには、治療を終了しても通常問題はない。
全身症状によっては補助療法を行う。肺炎が両側に広がり低酸素血症を来たした場合には、酸素投与や呼吸管理を行い、またステロイドを使用する。DIC への対応が必要になることもある。
予防としては、トリの飼育者に、オウム病の知識を普及させることが重要である。過度な濃厚接触を避け、トリが弱ったときや排菌が疑われる場合には、獣医の診察を受けたり、テトラサイクリン入りの餌を1週間程度与えたりする。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。